音連れ

二畳ばかりの茶室にはいって驚くのは、耳が敏感になることである。釜で湯が沸く音、炭がはじける音、足が畳に触れる音から自分の息の音まで。また外から閉じられているようでいて、風の音、ししおどしの音、蹲で水のすべる音、様々な音が流れていく。


この耳の感覚がすさまじい。そしてふいにやってくる音が茶室のなかの空間を動かす。その音がきっかけとなって茶事が動き出す。利休の耳はよほどであったろう。音によって構造化された空間といってもよい。もう少し利休の耳の研究があってもよさそうなのだが見かけない。


「わび・さびの感覚」とはよく言われるが、この文句が使われるときは往々にして「わび・さびのイメージ」に置き換えられていることが多い。もう少し感覚を磨いてもらいたい。


視覚よりもなによりも音こそが感覚のまんなかを貫いているのを感じる。なにしろ真っ暗闇でも元気にはたらいているではアリマセンカ。