森からのマレビト

ギターとヴォーカルのデュオ、Tuck & Patti/タック&パティのライブに出掛ける。今回彼らは龍安寺での演奏をDVDにとるために来日、そしてとある森のようなカフェでライブをやろうとしたが、場所がキャンセル、急遽、井の頭公園のカフェでライブをやることになった。そんな事情もあって案外今回のライブを知らなかったファンもきっと多い。


タックのギターは超絶、おそらくは世界の三本指にはいる。彼のギターはとてもギターひとつで弾いているとは思えないという超絶振りだけでなく、音と音楽を同時に見事に構築する。彼が今日弾いた"Over the Rainbow"は圧巻だった。武満徹がアレンジした曲より遥かに構成力が上。並じゃない。


パティのヴォーカルはエラ・フィッツジェラルドの再来、おそらくはそれ以上。シンディ・ローパーが歌い、マイルス・デイビスがスタンダードにした"Time after Time"もお見事。心を揺さぶりっぱなし。彼女もただ歌を歌っているのではなく、歌と言葉を同時に構築する。彼女のスキャットもその才能に支えられている。


そんなデュオがいきなり森のカフェに出現。まさにマレビトだ。通りかかった人はさぞかし驚いたことだろう。ゆるぎのない説得力に溢れた音・音楽・言葉・歌の空間が見事にたちあらわれる。まさに芸人。ミュージシャンという言葉で片付けられる域はとうに超えている。


人は音楽や歌だけをきいているわけではない。いつだって音・音楽、言葉・歌がセットであるはずなのに、なぜか音楽と歌だけをとりだすような時代にあまりに慣れすぎてきた。そして隣で鴉が鳴くと音楽の邪魔だと感じてしまう。今日は噴水のしぶきの音も鳥の鳴き声もそのままに彼らがそこにたちあげた作品だった。


マレビトは遠来の知恵、森の知恵をさずけるだけでなく、おそらくはそこに芸が介在しているだろう。そんなマレビトの出現を見てしまったようなひとときだった。


▼Tuck & Patti
 http://www.tuckandpatti.com/