言語のゆらめき

長岡技術科学大学の三上先生をたずねて「言語天文台プロジェクト」についての話をうかがう。長岡は雪。先日の地震の被害も大学はごく小さかったとのこと。


研究室のフロアのエレベータ・ホールにタイプライター、キーボード、コーランなどが展示されている。よくみるとキーの文字がヒンドゥー文字だったり。キーを叩く人がそこにいるような、不可思議なオブジェ。


いま、世界にはおよそ六千の言語があるが、インターネットのおかげでそれらが飛び交う共通の空間ができあがった。まさに多言語のデジタル空間。言語天文台ではこれらの言語をモニタリングし、世界の言語の動向を見る。モニターの対象とするのはウェブ・ページ。これは絶滅しかけている言語や、言語のすべてを記録・保存しようとするものではない。あくまでデジタル空間を飛び交う言葉の模様にこだわる。


デジタル空間のなかには、「書き言葉」でも「話し言葉」でもない言葉がある。どちらの速度でもなく、どちらのコンテキストの持ち方とも異なる。だがこれはまだ十分に研究されていない。どうもこのあたりに「こころのなかの言葉」の有様をさぐる手掛かりがあるのでは、という気がする。こころのなかは、書き言葉でも話し言葉でも間に合わない。だから沈黙して、手を止めて、こころのなかの言葉に耳を澄ませようとする。


ウェブは、本以上に「いま」という時間に敏感である。またいま生きつつある空間に密着している。この「ただいま感覚」に触れられるようになるとウェブのもつ面白味の由来が了解できる。きっと本はウェブにはならない。


三上先生とはどこか機縁で結ばれているようで、少し話をしただけで数々の共通項が飛び出してくる。またの再会を約束して鎌倉に戻る。戻ると雪がちらほら。誰かがお喋りしているのでしょうかねぇ。


▼Language Observatory
 http://www.language-observatory.org/