墨の音

墨が音をたてる。

水墨画家の土屋さんをたずねる。気がつくと久方振りに日本の話に明け暮れていた。すさぶ熱海、表音・表意空間、鈴木秀夫の風土論、山水、アジア的空間、表意するアジア、風水、黒船、境界線の遊び、日本的なるものの呪縛、七福神、三十代アーティストの動向、墨のアーカイブ、ことばとイメージと世界、果ては月島から衛星まで。途中、土屋さんのパフォーマンスをはさんで五時間。和紙に墨をおいていく「ちりちりかりかりくしくし」いう音が、世界を定着させていく刻み音のように聞こえる。「こんなところですか」という声が落款のように響くと画が光る。

画きあがった風景を眺めながら脇見をするように話をする。墨の色が少しずつ変化していき、ひとつの画に収斂し、むかしからそこにあったかのような貌になる。この定着しつつあるプロセスにふつふつと存在の音を聞く。花を活けているような消息がふいにやってくる。

そろそろJapanesqueからNipponesqueへの展出がおきそうだ。