桜氏との約束

朝の桜氏は病院の屋上からだったが、少し息が苦しそうだった。夜が怖いと言っていた。寝るとそのまま連れて行かれてしまうのではないか、という気持ちに襲われる。いったい年を越せるのだろうか。人と世界の淵の不安のなかで桜氏は闘っている。さきほどの桜氏は少し声が回復し、元気な声。昔の自分の話をするときが一番元気そう。こどもの時分は料亭と酒蔵に囲まれて暮らしていたそう。桜氏の悉皆の本領もそんなところにあるのかも知れない。そんな桜氏と、元気になったらふたりで久留里線にのっておいしい食べ物と少しのお酒に舌鼓を打ちにいく約束をする。ふたりで悉皆屋をはじめたい。縁のなかには絆もある。